2015年 12月 05日
『恋の蜃気楼』第22話 |
第22話
・「初夏の三年坂」
安曇は京都を宇喜多さんと歩きたいと思った。京都は好きな街で、年に1度は何らかな用事で足を運んでいる。
宇喜多さんの都合の良い時間帯もあるが、京都で少しおしゃれなレストランで食事もできればと思い描く。
場所は色々とあるが、男女のデートコース的にはこれまで体験してはいないで、安曇の心には新鮮さが湧いている。
天気の様子もあるが、楽しく過ごせる一日を思い描きながら、宇喜多さんに提案してみた。
宇喜多さんは勤務的には夜勤もないが、子どもさんがいらっしゃるので、そうそう電話での話はできなと安曇は配慮し、大半のやり取りはメールで行っていた。
「次にお会いできるとしたら、いつ頃が空いていますか? よかったら京都でも散策したいのですが」
安曇のメールに、間をおいて返信があった。
「安曇さん、今日と行ってみたいです。空いているのは6月の第1土曜日だったら行けます」
安曇も予定はなかったのですぐその日に決めた。梅雨時だったので雨の心配もあったが、雨だったら雨でまた何らかな情緒もあるかもしれないと、柔軟に考えている。
・「電車の中で」
4回目のデートだと安曇も、もう恋人気分。実はそこがトラップなのかもしれないのだが。
阪急梅田の京都線の前で待ち合わせをする。時間は10時少し前。
10分置きに特急電車が発車するので、混雑していても一電車待てば座れるので、のんびりとした気分で待ち合わせをしていた。
約束の時間が来ても宇喜多さんの姿が見えないので、安曇に不安がよぎる。
電話してみよう。
安曇は携帯に電話をする。電話口に宇喜多さんが出る。
「はい宇喜多です」
「おはようございます、安曇ですが、今どこですか?」
「いまコンビニの前で、改札にはまだ入っていないんです、どこに行ったいいんですか」
「コンビニですか、何階にいますか」
「え~と、3階だと思います」
「そしたらコンビニの前を東に行ってください」
「東ですか」
「あ!みっけ!」
「え?どこですか?」
「改札の中だよ」
「あ、判りました」
二人は携帯を切って、宇喜多さんは改札の中へ入ってくる。安曇はその姿を追いながら待っている。
安曇はなんとなく恋人気分だ。
駅のコンコースで待ち合わせた宇喜多さんと安曇は、京都行の特急のホームに並ぶ。
いつも観光客で混雑するホームに、電車を1本送らせて乗ることにし電車を待った。
梅田の駅はヨーロッパスタイルの終点始発型のホームになっていて、一般的な日本の駅にはない雰囲気を醸し出している。たいていの乗降客は何げない風景に見えているかもしれないが、安曇はなんとなく味わいを感じていて、好きな駅の一つだ。
安曇は彼女と電車に乗り込み、2シーターの席へ。
愉しい一日になることを願って安曇はシートに座る。
安曇は唐突ながら宇喜多さんに、「いつもは母親であるんだろうけども、今日は彼女になってほしい」と告げた。
その言葉に宇喜多さんからは特段リアクションはなかったけれども、電車の中での宇喜多さんの話は、過去の離婚に至った話をしてくれた。
その話題は安曇が投げたわけではなかったが、真剣に付き合うのであれば、彼女にとって過去の話は告げておくべきだと思ったのかもしれない。
電車の中で彼女の過去の話を聞いていると、それぞれ人生にはいろいろな不幸な出来事が起こっているのだと実感する。
彼女は前夫と別れてから、働きながら一人の子どもを育てている。安曇は自身も父子家庭だが、経済的なことを考えるとしっかりとしているなと関心もするし、逞しくにも見える。
しかし女性側の離婚の様子を知ると、大概男の身勝手さが見えてくる。それはそれでどこまでそう思っていいのかということもあるが、逆に「男」のイメージがそのネガティブなイメージで定着しているのなら、安曇はそれを払しょくしたいと考える。
ただ、宇喜多さんも世の男が皆同じとは捉えてはいないだろうから、その必要性もなかろうが。
京都四条河原町に降り立ち、八坂神社を抜けて円山公園へ向かった。
円山公園にあるレストランで、先に食事をすることに。
安曇は予約をしてはいなかったが、たまたま席に余裕があったのか、テーブルに着くことができた。
安曇はこれまで幾度か訪れたことがあったので、なじみがあった。エスコートするものとしては気持ちに多少でも余裕があった方がいい。
時間帯がお昼だったこともあって、ランチのコースを愉しんだ。
飲み物はアルコールを抜いたワインを注文し、ちょっと優雅な気分にしたりながらコース料理を楽しむ。宇喜多さんもこの程度のランチは慣れている様子だったので、気軽に昼食を愉しむ。
会話は仕事のことや、家庭のこと、子どものことなどを話す。
途中で宇喜多さんの姿を、写真にとってもよいか許可をもらって、カメラを向ける。何枚かシャッターを切るごとにその画像を見せて、宇喜多さんが選択する。
料理が運ばれてきて、その食材のことをウエイターに質問すると答えられなかったことから、そのウエイターに随分気を使ってもらった。
特に宇喜多さんへの態度がすごく丁寧だった。
料理の話題も楽しく、この時間帯は和気藹々あと食事を楽しんだ。
安曇はプライベートで外出するとき、コンパクトデジタルカメラを持っていく。この日もカメラを持って行っていた。これまでの「婚活」の過程で写真など撮らせてもらえるまでには至っていない。
安曇はこのデートで初めて彼女の顔写真を撮ってみようと思った。
「宇喜多さん、写真撮ってもいいかな」
「だめですよ」
「そうですか」
「一枚だけ、雰囲気」
安曇は理由にならない理屈をつけて、ねだってみた。
「じゃ、一枚だけ、確認させて」
安曇はテーブル越しに、彼女の写真を何枚かとって、宇喜多さんに見せた。
彼女は、はにかみながら
「写真写り悪いでしょ」
「そんなことはないよ、綺麗に撮れているよ」
安曇は写真を撮らせてもらったことで、随分と先へ進んだと勝手に思い込んだ。
食事を済ませた後、清水寺の方へ足を向けた。
また八坂神社を抜け、高台寺の前を過ごして、三年坂方向へ二人でゆっくりと歩いて行く。
三年坂は観光客もおおく、身動きが取れないほどだ。
その中を、道沿いの店を見ながら、ゆっくりと坂を上っていき、清水寺の境内にたどり着く。
境内に入り、上の方に祭られている神社にもお参りしながらぐるっと回って、舞台をもみて回って境内の庭を回って降りてくる。
天気にも恵まれていたので、舞台からの眺めも良く、会話はなかったが、お互い満足した雰囲気で清水寺を愉しんで、また来た道を下って行く。
二年坂あたりで少しお茶でも、と、京都の和を基調としたインテリアの喫茶店に入り休憩する。宇喜多さんはまた何かと家庭の状況と前の夫の様子を話題にのせている。
安曇は宇喜多さんに困りごとがあるのなら、いろいろとどうしようかということに、安曇なりの考えを伝えていた。
安曇は話を聞きながら、結婚まで色々と片付けなければならないハードルも考えていた。
清水寺から結局四条河原町まで歩き、川の桟敷で休んでその光景を二人して眺め、時間も夕方に迫ってきたことで、四条河原町から電車に乗って帰路に就いた。
梅田でお疲れ様と、いつものように別れ、安曇は携帯のメールで「お疲れ様でした、今日は楽しかったよ」と伝えた。
・「夢は終わる」
京都を散策した日、安曇は宇喜多さんにメールを打ったが、なぜか帰ってこない。
数日まって、高垣さんに相談してみた。
「心配ですね、こちらからちょっと様子をうかがってみます」
「よろしくお願いします」
それから1種間ほどたって高垣さんから連絡が入った。
「安曇さん、私ショックです」
「え」
安曇はまさかと思ったが、だめだったんだと認識した。
「安曇さん、それまで宇喜多さんの話とか伺っていて、うまくいっていたと思ったんです。私ショックです。何がそうなったのかわかりません。安曇さん何かありました」
安曇はインストラクターがびっくりするくらい、突然のアウトにダメ出しの理由を見つけることができない。
「高垣さん、理由はなんなんです」
「いや理由がはっきりしないのよ」
「そうですか」
安曇の意気消沈が伝わったのか高垣さんは残念だとしか言いようがなかったようだ。
安曇は、理由が何か判らなかったが、ひょっとしたら、婚活のことをお子さんにでも話して、そこでダメ出しを食らった可能性もあると、いいように理解して、高垣さんに、宇喜多さんにはくれぐれもよろしく伝えておいてと、伝言した。
今回初めて、何度かデートを重ねて、来れからだと言うところでとん挫した。
安曇は少し婚活を休む気分になっていた。
・「初夏の三年坂」
安曇は京都を宇喜多さんと歩きたいと思った。京都は好きな街で、年に1度は何らかな用事で足を運んでいる。
宇喜多さんの都合の良い時間帯もあるが、京都で少しおしゃれなレストランで食事もできればと思い描く。
場所は色々とあるが、男女のデートコース的にはこれまで体験してはいないで、安曇の心には新鮮さが湧いている。
天気の様子もあるが、楽しく過ごせる一日を思い描きながら、宇喜多さんに提案してみた。
宇喜多さんは勤務的には夜勤もないが、子どもさんがいらっしゃるので、そうそう電話での話はできなと安曇は配慮し、大半のやり取りはメールで行っていた。
「次にお会いできるとしたら、いつ頃が空いていますか? よかったら京都でも散策したいのですが」
安曇のメールに、間をおいて返信があった。
「安曇さん、今日と行ってみたいです。空いているのは6月の第1土曜日だったら行けます」
安曇も予定はなかったのですぐその日に決めた。梅雨時だったので雨の心配もあったが、雨だったら雨でまた何らかな情緒もあるかもしれないと、柔軟に考えている。
・「電車の中で」
4回目のデートだと安曇も、もう恋人気分。実はそこがトラップなのかもしれないのだが。
阪急梅田の京都線の前で待ち合わせをする。時間は10時少し前。
10分置きに特急電車が発車するので、混雑していても一電車待てば座れるので、のんびりとした気分で待ち合わせをしていた。
約束の時間が来ても宇喜多さんの姿が見えないので、安曇に不安がよぎる。
電話してみよう。
安曇は携帯に電話をする。電話口に宇喜多さんが出る。
「はい宇喜多です」
「おはようございます、安曇ですが、今どこですか?」
「いまコンビニの前で、改札にはまだ入っていないんです、どこに行ったいいんですか」
「コンビニですか、何階にいますか」
「え~と、3階だと思います」
「そしたらコンビニの前を東に行ってください」
「東ですか」
「あ!みっけ!」
「え?どこですか?」
「改札の中だよ」
「あ、判りました」
二人は携帯を切って、宇喜多さんは改札の中へ入ってくる。安曇はその姿を追いながら待っている。
安曇はなんとなく恋人気分だ。
駅のコンコースで待ち合わせた宇喜多さんと安曇は、京都行の特急のホームに並ぶ。
いつも観光客で混雑するホームに、電車を1本送らせて乗ることにし電車を待った。
梅田の駅はヨーロッパスタイルの終点始発型のホームになっていて、一般的な日本の駅にはない雰囲気を醸し出している。たいていの乗降客は何げない風景に見えているかもしれないが、安曇はなんとなく味わいを感じていて、好きな駅の一つだ。
安曇は彼女と電車に乗り込み、2シーターの席へ。
愉しい一日になることを願って安曇はシートに座る。
安曇は唐突ながら宇喜多さんに、「いつもは母親であるんだろうけども、今日は彼女になってほしい」と告げた。
その言葉に宇喜多さんからは特段リアクションはなかったけれども、電車の中での宇喜多さんの話は、過去の離婚に至った話をしてくれた。
その話題は安曇が投げたわけではなかったが、真剣に付き合うのであれば、彼女にとって過去の話は告げておくべきだと思ったのかもしれない。
電車の中で彼女の過去の話を聞いていると、それぞれ人生にはいろいろな不幸な出来事が起こっているのだと実感する。
彼女は前夫と別れてから、働きながら一人の子どもを育てている。安曇は自身も父子家庭だが、経済的なことを考えるとしっかりとしているなと関心もするし、逞しくにも見える。
しかし女性側の離婚の様子を知ると、大概男の身勝手さが見えてくる。それはそれでどこまでそう思っていいのかということもあるが、逆に「男」のイメージがそのネガティブなイメージで定着しているのなら、安曇はそれを払しょくしたいと考える。
ただ、宇喜多さんも世の男が皆同じとは捉えてはいないだろうから、その必要性もなかろうが。
京都四条河原町に降り立ち、八坂神社を抜けて円山公園へ向かった。
円山公園にあるレストランで、先に食事をすることに。
安曇は予約をしてはいなかったが、たまたま席に余裕があったのか、テーブルに着くことができた。
安曇はこれまで幾度か訪れたことがあったので、なじみがあった。エスコートするものとしては気持ちに多少でも余裕があった方がいい。
時間帯がお昼だったこともあって、ランチのコースを愉しんだ。
飲み物はアルコールを抜いたワインを注文し、ちょっと優雅な気分にしたりながらコース料理を楽しむ。宇喜多さんもこの程度のランチは慣れている様子だったので、気軽に昼食を愉しむ。
会話は仕事のことや、家庭のこと、子どものことなどを話す。
途中で宇喜多さんの姿を、写真にとってもよいか許可をもらって、カメラを向ける。何枚かシャッターを切るごとにその画像を見せて、宇喜多さんが選択する。
料理が運ばれてきて、その食材のことをウエイターに質問すると答えられなかったことから、そのウエイターに随分気を使ってもらった。
特に宇喜多さんへの態度がすごく丁寧だった。
料理の話題も楽しく、この時間帯は和気藹々あと食事を楽しんだ。
安曇はプライベートで外出するとき、コンパクトデジタルカメラを持っていく。この日もカメラを持って行っていた。これまでの「婚活」の過程で写真など撮らせてもらえるまでには至っていない。
安曇はこのデートで初めて彼女の顔写真を撮ってみようと思った。
「宇喜多さん、写真撮ってもいいかな」
「だめですよ」
「そうですか」
「一枚だけ、雰囲気」
安曇は理由にならない理屈をつけて、ねだってみた。
「じゃ、一枚だけ、確認させて」
安曇はテーブル越しに、彼女の写真を何枚かとって、宇喜多さんに見せた。
彼女は、はにかみながら
「写真写り悪いでしょ」
「そんなことはないよ、綺麗に撮れているよ」
安曇は写真を撮らせてもらったことで、随分と先へ進んだと勝手に思い込んだ。
食事を済ませた後、清水寺の方へ足を向けた。
また八坂神社を抜け、高台寺の前を過ごして、三年坂方向へ二人でゆっくりと歩いて行く。
三年坂は観光客もおおく、身動きが取れないほどだ。
その中を、道沿いの店を見ながら、ゆっくりと坂を上っていき、清水寺の境内にたどり着く。
境内に入り、上の方に祭られている神社にもお参りしながらぐるっと回って、舞台をもみて回って境内の庭を回って降りてくる。
天気にも恵まれていたので、舞台からの眺めも良く、会話はなかったが、お互い満足した雰囲気で清水寺を愉しんで、また来た道を下って行く。
二年坂あたりで少しお茶でも、と、京都の和を基調としたインテリアの喫茶店に入り休憩する。宇喜多さんはまた何かと家庭の状況と前の夫の様子を話題にのせている。
安曇は宇喜多さんに困りごとがあるのなら、いろいろとどうしようかということに、安曇なりの考えを伝えていた。
安曇は話を聞きながら、結婚まで色々と片付けなければならないハードルも考えていた。
清水寺から結局四条河原町まで歩き、川の桟敷で休んでその光景を二人して眺め、時間も夕方に迫ってきたことで、四条河原町から電車に乗って帰路に就いた。
梅田でお疲れ様と、いつものように別れ、安曇は携帯のメールで「お疲れ様でした、今日は楽しかったよ」と伝えた。
・「夢は終わる」
京都を散策した日、安曇は宇喜多さんにメールを打ったが、なぜか帰ってこない。
数日まって、高垣さんに相談してみた。
「心配ですね、こちらからちょっと様子をうかがってみます」
「よろしくお願いします」
それから1種間ほどたって高垣さんから連絡が入った。
「安曇さん、私ショックです」
「え」
安曇はまさかと思ったが、だめだったんだと認識した。
「安曇さん、それまで宇喜多さんの話とか伺っていて、うまくいっていたと思ったんです。私ショックです。何がそうなったのかわかりません。安曇さん何かありました」
安曇はインストラクターがびっくりするくらい、突然のアウトにダメ出しの理由を見つけることができない。
「高垣さん、理由はなんなんです」
「いや理由がはっきりしないのよ」
「そうですか」
安曇の意気消沈が伝わったのか高垣さんは残念だとしか言いようがなかったようだ。
安曇は、理由が何か判らなかったが、ひょっとしたら、婚活のことをお子さんにでも話して、そこでダメ出しを食らった可能性もあると、いいように理解して、高垣さんに、宇喜多さんにはくれぐれもよろしく伝えておいてと、伝言した。
今回初めて、何度かデートを重ねて、来れからだと言うところでとん挫した。
安曇は少し婚活を休む気分になっていた。
by k2675
| 2015-12-05 15:41
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